対人支援職が知っておくべきストレスケア

はじめに:ストレスが引き起こす悪循環

現代社会において、ストレスは避けて通れない課題です。特に、経営者、管理職、人事担当者、そして医師、看護師、保健師、教員といった対人支援職の皆様は、日々の業務で大きな責任とプレッシャーに晒されています。

この記事では、ストレスがどのように生活習慣に影響を与え、健康を害していくのか、そしてその悪循環を断ち切るために重要な「自己理解のための学び」について解説します。

生活習慣病の背後にあるもの

生活習慣病とは、食べすぎや糖質・脂質・塩分過多の食事などの食生活、運動不足、喫煙、過度の飲酒、睡眠不足といった生活習慣に起因する病気の総称で、高血圧、糖尿病、心臓病、腎臓病といった疾患が代表的です。

  • 高血圧
    血管を流れる血液の圧力が慢性的に高い状態を指します。血管への負担が増し、動脈硬化を進行させる要因となります。自覚症状がない場合も多く、「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれています。
  • 心臓病
    心臓の機能に異常が生じる病気の総称です。狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、不整脈、心不全など、様々な種類があります。高血圧は心臓に負担をかけ、これらの心臓病のリスクを高めます。
  • 糖尿病
    血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が慢性的に高い状態です。血管を傷つけ、様々な合併症を引き起こす可能性があります。特に、目の血管(糖尿病性網膜症)、腎臓の血管(糖尿病性腎症)、神経(糖尿病性神経障害)への影響は深刻です。
  • 腎臓病
    腎臓の機能が低下する病気です。老廃物の排出や体液のバランス調整などがうまく行かなくなり、進行すると透析が必要になる場合もあります。高血圧は腎臓に負担をかけ、腎臓病を悪化させる要因となります。

これらの病気は相互に密接に関連しており、その根本原因の一つに「ストレス」が潜んでいます。

ストレスと不健康な生活習慣の悪循環

私は保健指導を専門としており、生活習慣病・生活習慣病予備軍の方5,000人以上に会ってきましたが、「現在の生活習慣が続くと将来、怖い病気になりますよ」と脅し、「やせてください」「運動してください」「タバコをやめてください」「お酒を控えてください」などと伝えることの無意味さを痛感してきました。


実は、これらの「不健康な生活習慣」は病気の原因であると同時に、ストレスに対処するために“自己治療”として選ばれた結果であることが多いからなのです。


例えば
 • 過食はストレスの発散
 • 飲酒は不安や孤独感を紛らわすため
 • 喫煙は一時的な気晴らし


不健康な習慣がストレスに対処するために生じていると理解できると、「今の生活習慣を変えてください」と伝えるだけでは、根本的な解決につながらないことがお分かりいただけると思います。


むしろ、お伝えするべきは「ストレスに対処するために、今の生活習慣を選ばざるを得なかったのですね。よくここまで頑張ってこられましたね! よくここまで生き延びてこられましたね!」という共感です。

“生活習慣病という考え方や現在の保健指導は何かおかしい”という思いから書いたのがこの本です。
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ストレスの本質に目を向ける

では、ストレスの根源とは何でしょうか?過重労働、パワハラ上司、人間関係の悩み、経済的な不安、理解のない家族などが思いつくかもしれません。しかし、私は、これら多くのストレスの一番根っこにあるのは自分自身との関係性ではないかと考えています。
具体的には、

  • 自分の感情を抑えていること
  • 自分が感じることに良い悪いとジャッジしていること
  • 立場や役割で生きること
  • 言いたいことを言わないでいること
  • 本音で生きていないこと
  • ありのままの自分でいいと思えていないこと
  • 自分には価値があると感じられないこと
  • 自分を100%出さずに我慢していること
  • 自分を大切にできていないこと
  • 本来の自分らしさから離れていること
  • ○○でなくてはならない、○○であるべきという思い込み

などです。


このような思考や行動パターンにより心身に大きな負担がかかり、結果的に生活習慣病のリスクを高めることになります。一方で、自分らしくありのままに生きている人は、上記のようなストレスを感じる状況に陥りにくいと言えるでしょう。

自分を知り、ストレスから解放される

生活習慣病の方や心身の不調を感じている方は、自分が感じていることがよく分からず、本音を言うことをためらい、立場や役割に縛られている傾向があります。常に自分を検閲し、自己卑下し、多くの思い込みに苦しんでいます。


そこで重要なのが、「自己理解のための学び」です。すなわち「自分自身について知る」ことです。

  • 抑えていた感情に気づき、十分に感じる
  • 自分を縛り付けている思い込みに気づく
  • ありのままの自分を受け入れる(自己受容)
  • 自分の感情や感覚を信じる(自己信頼)

これらのプロセスを通じて、ストレスから解放され、より自分らしく生きられるようになるのです。そしてこれは健康的な心と体を維持する道でもあるのです。

自己理解のための学びはビジネスパフォーマンスにも繋がる

対人支援職は、他者に寄り添い、支援を行う仕事です。だからこそ、自身の心身の健康が支援の質に大きく影響します。
自己理解のための学びは、個人の健康だけでなく、自己肯定感や自己成長が促進され、自分のままで他者と関わることができるようになり、バーンアウトの予防にも繋がります。特にリーダーシップを発揮する立場にある方や対人支援職の方にとって、自己理解のための学びは組織全体の活性化、そしてより良い社会の実現に貢献する重要な要素と言えるでしょう。

最後に:自分らしさを取り戻すには安全安心な環境が必要

長年自分を否定し、本来の自分から離れ、誰かの期待に応えて生きてきた人にとって、生き方を変えることは容易ではありません。必要なのは、安心して自分をさらけ出せる場と、同じように悩む仲間の存在です。