職場のメンタルヘルスと神経系の理解
8月の終わりに、「産業保健職のためのポリヴェーガル理論」というテーマで、産業精神保健学会教育講演に登壇させていただきました。
近年、繰り返し休職されるうつ病や不安障害の背景に、発達障害や発達性トラウマがあることが注目されています。
そのため、産業保健スタッフにもトラウマやポリヴェーガル理論の理解が必要だということで、お声かけいただきました。
講演抄録より
以下は、抄録に書いた文章です。
「産業保健職のためのポリヴェーガル理論」
近年、職場におけるメンタルヘルス対策やストレスマネジメントの実践において、自律神経系に対する理解の重要性が高まっています。
そのなかでも、米国の精神生理学者Stephen Porgesによって提唱された神経生理学的モデルであるポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)が注目されています。
ポリヴェーガル理論は、自律神経系を交感神経系・副交感神経系の二元構造として捉えるのではなく、迷走神経系を中心とした多重構造的な視点から、安全・危険・生命の脅威といった感覚が対人行動や生理的反応に及ぼす影響を説明しています。
本理論は、職場での不適応反応やストレス関連症状を神経生理学的に読み解くための有効な枠組みを提供し、産業保健の現場にも応用可能です。
本講演では、ポリヴェーガル理論の基礎的な構造として、
①背側迷走神経系(シャットダウン反応)
②交感神経系(闘争・逃走反応)
③腹側迷走神経系(社会的関与と安全の感覚)
の三層構造についてわかりやすく解説します。そのうえで、産業保健の現場における実践的な応用として、以下の3点を主に取り上げます。
1. メンタル不調や職場不適応の背景にある神経系の状態をどう見立て、
どのような支援が「安全」をもたらすのか。2. 面談において、身体言語や声のトーンといった非言語的要素が、
腹側迷走神経を刺激し、安全感や信頼関係の形成に寄与する点。3. 支援者自身のストレスへの気づきと神経系の調律を促すセルフケア手法。
本講演を通じて、産業保健職としての「関わり」の質を、神経系という土台から再考することで、より持続可能で包括的な支援のあり方を探るきっかけになればと考えています。
奇跡的なご縁からのご依頼
今回、お声かけくださったのはジャパンEAPシステムズ 産業ダイアローグ研究所 所長の米沢宏先生です。
実は米沢先生との出会いは奇跡的でした。
8月の学会でポリヴェーガル理論の講師を探しておられた米沢先生は、私に依頼したいと思いながらも、当時は直接のつながりはありませんでした。
ところが5月、仙台で開催された産業衛生学会の参加受付で、偶然にも私が目の前に。
ネームカードを書き終えて顔を上げたとき、米沢先生と目が合い、
「ミレイ先生ですか!?」とキラキラしたまなざしで声をかけていただいたのでした。
いささかビックリしたのですが、その場で教育講演の依頼をいただきました。
5月半ばにご縁がつながり、8月終わりに講演させていただきました。
このスピード感と偶然は、本当に「ミラクルだなぁ」と思います。
米沢先生、この度は本当にありがとうございました。

さいごに
今回の産業精神保健学会のセッションは、9月いっぱいオンデマンドで視聴可能です。私の講演のほかにも、学びの多いプログラムが満載です
今からでもお申込みができるようですので、ぜひチェックしてみてくださいね。
