【研修報告】産業心理学入門シリーズ|カウンセリング実践

問題を解決しようとする前に、その人を理解しようとすること。

面談で、
問題を解決しようとしているのに、
相手が本音を話してくれない。

産業医や産業保健職、人事担当者の方から、

このような相談を受けることがあります。

実は、その背景には、

私たち支援者が無意識に「問題を解決しよう」

としてしまうことが関係しているかもしれません。

7月9日、千葉県産業保健総合支援センター主催

「産業心理学入門シリーズ」にて、

「カウンセリング実践」をテーマにお話ししました。

ハイブリッド開催で、

会場は10名満席

オンラインでも10名を超える方

全国からご参加くださいました。

今回は

ミニレクチャーと理論に関する質疑応答に続き、

オープンカウンセリング、さらに技法に関する質疑応答を行いました。

産業医や保健師、人事担当者など、

働く人を支援する立場の皆さまと、

「理論」と「実践」を往復しながら学ぶ時間となりました。

企業での面談とカウンセリングは、目的が違う

企業で行われる産業保健面談には、

就業判定や復職支援、就業上の配慮など、

組織としての役割があります。

そのため、心理カウンセリングとは

目的も立場も異なります

一方で、

産業医として企業で面談を重ねる中でも、

公認心理師・心理カウンセラーとして相談を受ける中でも、

一貫して感じてきたのは、

「人を理解しようとする姿勢」は共通して大切

だということです。

相手を理解することと、

就業上の判断を行うことは

矛盾するものではありません。

むしろ、

その人を理解しようとする姿勢があるからこそ

必要な助言や判断も相手に届きやすくなり、

よりよい支援につながると感じています。

産業医・産業保健職の面談で陥りやすい「問題解決思考」

医療職や産業保健職は

異常を見逃さないように訓練されています。

そのため、

面談でも無意識のうちに

何が問題なのか」を探し、

どう解決するか」という視点になりやすいものです。

もちろん、それは大切な役割です。

ただ、相談者が本当に求めているのは、

すぐに答えを示してもらうことではなく、

「自分のことを理解してもらえた」と

感じられる時間であることも少なくありません。

問題解決の前に、

その人を理解しようとすること。

その姿勢こそが、

結果として相談者自身の気づきと、

自ら問題に向き合う力につながっていきます。

企業における面談で意識したい3つのポイント

1

問題を急いで解決しようとしない

2

相手を評価する前に、背景を理解する

3

アドバイスより先に、「理解する姿勢」を示す

産業保健の現場で使えるカール・ロジャーズの「中核三条件」

そこで今回の講義では、

カール・ロジャーズが提唱した

中核三条件(信頼関係を築くために支援者が大切にしたい3つの姿勢)」

を取り上げました。

自己一致

自己一致とは、自分の感情や考えに気づき、必要に応じて率直に表現できることです。

「何でも正直に話す」ということではありません。

支援者もまた一人の人間です。

理想の支援者を演じるのではなく

自分自身とつながりながら自然体で相手と向き合うことが、

信頼関係の土台になります。

無条件の肯定的関心

「いいですね」

「素晴らしいですね」

こうした言葉は、

一見すると肯定しているように聞こえます。

しかし、

その背景には「そういう人が望ましい」

という評価が含まれ、

裏のメッセージが伝わってしまうことがあります。

無条件の肯定的関心とは、

相手の行動を評価することではなく、

その人の存在そのものを尊重する姿勢です。

例えば、

・遅刻を繰り返す

・ミスが続く

・職場でトラブルが起きる

など、会社として改善を求めなければならない行動があるでしょう。

そうした行動への対応は必要です。

しかし、その人の人格まで否定するわけではありません。

「なぜこの行動が起きたのだろう」

「どのような背景があるのだろう」

理解しようとする姿勢が、

支援者には求められます。

共感的理解

共感とは、

「私も同じです」と

相談者と一体化することではありません。

支援者と相談者は、

あくまでも違う人間です。

だからこそ、「わかったつもり」にならず、

「私はこう受け取ったけれど、あなたはどう感じていますか」と確認し続けること

――これが共感的理解です。

これらの姿勢が土台にあるとき、

相談者は安心して本音を話せるようになり、

自ら課題に向き合う力が育まれていきます。

オープンカウンセリングだからこそ伝わるもの

後半は、

参加者の一人が手を挙げてくださり、

皆さんの前でご自身のことを話してくださる

オープンカウンセリングを行いました。

初めての場で、

自分の内面と向き合うことは

決して簡単なことではありません。

その勇気に心から感謝するとともに、

対話を通して

少しずつ新しい気づきが生まれていく場

に立ち会えたことを

私自身とてもありがたく感じました。

産業保健分野の研修で、

ロールプレイではない

実際のカウンセリングを見る機会は決して多くありません。

カウンセリングは知識だけでは身につかず、

「支援者がどのような姿勢で相談者と向き合っているのか」を

体験的に学ぶことが欠かせません。

理論を学んだ直後に実際の対話を見ることで、

中核三条件が対話の中でどう現れ、

関係性が築かれていくかを体感していただけたのではないかと思います。

💬

参加者からこんな声をいただきました

相談者を変えようではなく、
理解しようとする関わりが
大切だと気づきました。

講義だけではイメージしにくいことも、
実際のカウンセリングを見せていただくことで、
とても勉強になりました。

日々の面談で、
助言をするのではなく、
対象者自身が気づけるような関わりを
意識したいと思いました。

面談のコツーー現場でよくある質問への回答

質問①

講義の冒頭では、

産業保健の現場でよくある場面をいくつか紹介しました。

その一つが、

「大丈夫です。」

の一言で面談が終わってしまうケースです。

この場面に共感された参加者から、

実際にはどう対応したらよいのでしょうか

という質問をいただきました。

これに関しては、

カウンセリングと企業における面談とでは対応が少し異なります。

支援者が「大丈夫ではないのでは」と感じる背景には、

就業上気になっている事実があるはずです。

そのため企業における面談では、

まずその具体的な事実を丁寧に伝え、

「こうした点が気になっているので、お話をうかがえたらと思っています」と

関係性を築いていくことが大切です。

「大丈夫かどうか」を問うのではなく、

具体的な事実から対話を始めることで、

相手が言葉を出しやすくなります。

質問②

オープンカウンセリングの後には、

なぜ質問に対して質問で返したのですか

という質問もいただきました。

医療者は、

質問されたら答えなければ

と感じやすいものです。

しかし、

相談者が本当に求めているのは答えではなく

自分の気持ちを整理する時間かもしれません。

そんなとき、

こう確認するのも一つの方法です。

今、アドバイスが欲しいですか。
それとも気持ちを整理したいですか。

相手が何を必要としているかを確認することが、

より的確な支援への第一歩になります。

おわりに——「理解しようとする姿勢」は、判断と矛盾しない

企業における面談は、

就業上の判断や安全配慮という、

企業ならではの役割があります。

そのため、

心理カウンセリングとは目的も役割も異なります。

それでも、

「目の前の人を理解しようとする」という姿勢は、

どちらにも共通する土台です。

判断することと、

理解しようとすること。

この二つは対立するものではなく、

むしろ支え合うものだと感じています。

今回の研修が、日々働く人を支援している皆さまにとって、ご自身の面談を振り返るきっかけとなれば幸いです🍀