【登壇報告】人は「変えよう」としなくても、自分から変わっていく|千葉産保センター「全肯定面談」

何度伝えても、行動が変わらない

正しいことを話しているのに、どうして響かないんだろう

保健指導や面談の場で、そう感じたことはないでしょうか。

相手のためを思って伝えているのに、なかなか行動につながらない。

すると支援する側も、

もっと上手に伝えなければ

なんとか動機づけしなければ

と一生懸命になっていきます。

でも、もしかしたら、人が変わるために必要なのは、「変えようとすること」ではないのかもしれません。

9月10日、千葉県産業保健総合支援センター主催の「産業心理学入門シリーズ」にて、「全肯定保健指導」をテーマに登壇しました。

会場とオンラインをつないだハイブリッド開催で、新刊『30分で成果を出す!全肯定保健指導』をもとに、否定しない対話について皆さんと一緒に考え、体験する2時間となりました。

「勇気づけ保健指導」から「全肯定保健指導」へ

2017年に 『ミレイ先生のアドラー流“勇気づけ”保健指導』 を出版してから、約10年。
今年、新たに 『30分で成果を出す!全肯定保健指導:否定しない対話で変化を生む、カウンセリングの基本と実践』 を出版しました。

2017
ミレイ先生のアドラー流“勇気づけ”保健指導
2026
30分で成果を出す!全肯定保健指導

産業医として、さまざまな方との面談を重ねる中で、保健指導の奥深さをますます感じるようになりました。

考え続けてたどり着いたのが、 「変えよう」とする前に、まず「否定しない」こと です。

今回の研修では

否定しない対話とは何かを理解し、
実際に体験してみる

をゴールにしました。

人が変わらないのは、「自分を守っている」から

面談をしていると、いろいろな反応に出会います。

自責タイプ
「全部、自分が悪いんです」
他責タイプ
「会社が悪い」
「上司が悪い」
無関心タイプ
「別に気にしていません」

支援する側からすると、「困った反応」に見えることもあるでしょう。

しかし今回の研修でお伝えしたのは、 その反応にはその人なりの理由がある ということです。

自分を責めることも、誰かを責めることも、無関心でいることも、その人が自分を守るために身につけてきた 「生存戦略」 (=心を守るために無意識に取っている行動パターン) かもしれません。

そう考えると、

「どうして変わらないの?」
「この人は、何から自分を守っているんだろう?」

と、相手を見るまなざしが変わってきます。

「変えよう」とすると、かえって変われなくなる

支援者は相手を思うからこそ、

こうしたほうがいいですよ

このままではよくありませんよ

と伝えたくなります。

もちろん、医学的な情報を伝える必要がある場面もあります。

ただし、「あなたを変えよう」という働きかけは、

ときに「今のあなたではダメ」というメッセージとして伝わってしまいます。

すると人は自分を守ろうとして、かえって変化しにくくなることがあります。

研修では、ゲシュタルト療法(気づきを通して心の変化を促す心理療法の一種)の

変容の逆説的理論」も紹介しました。

変容の逆説的理論とは、
人は今の自分を否定して別の自分になろうとするのではなく、
今の自分を十分に認められたところから変化が始まる、
という考え方です。

だからこそ、「全肯定」なのです。

何でも「いいですね」と肯定することではありません。

「この人には、この行動をするだけの理由がある」というところから、その人を理解しようとする姿勢です。

全肯定が、自己不一致から自己一致への道をつくる

ここが、今回の研修で一番お伝えしたかったことです。

私たちの中には「こうあるべき」「こうしなければならない」という自分がいる一方で、

「本当は疲れている」「本当は休みたい」という感覚や感情を持っている自分もいます。

この「こうあるべき自分」と「ありのままの自分」との

ズレが生じている状態を、自己不一致と呼びます。

否定されない安全な場で、「私、本当はこんなことを感じていたんだ」と、自分の感情や考えに気づいていく。

すると少しずつ、自己不一致から自己一致へと向かっていきます。

自分自身とのズレが小さくなると、もともとその人の中にあった力が戻ってきます

そこでようやく「変わる準備」ができるのです。

誰かに変えてもらうのではなく、自分から動き始めます。

「全肯定」を実際に体験してもらいました

今回の研修は、知識として理解するだけでなく、実際に「全肯定」を体験していただく時間にしました。

まず、面談のデモンストレーションを行いました。

その様子を見ている皆さんの表情が、少し驚いているように見えたのが印象に残っています。

その後はペアになり、「感情の言語化」と「思考の言語化」を、

話し手・聴き手の両方から体験していただきました。

たとえば、

もしかしたら、○○という気持ちがあったのでしょうか?

と、こちらが感じ取った感情を相手に伝え返してみます。

これは「あなたはこう感じているんですよね」と決めつけるためではなく、

「私はこう理解したのですが、合っていますか?」と確認するためのものです。

感情を丁寧に見ていくと、その奥にある「○○すべき」「○○してはいけない」といった、

自分でも気づいていなかった価値観が見えてくることがあります。

「話す前より、楽になった人?」

ワークを終えたあと、話し手を体験した皆さんに聞いてみました。

話す前より、楽になった、軽くなったと感じた人?

すると、皆さんの手が挙がりました。

何か問題が解決したわけでも、正しい答えを教えてもらったわけでもありません。

ただ、自分の中にあるものを言葉にして、

それを否定されずに受け止めてもらった。

それだけでも、気持ちが少し軽くなることがあります。

参加された方からは、こんな感想をいただきました。

感情に焦点を当てて伝え返すことで、「聞いてもらえた」と感じてもらいやすくなり、安心感につながることが印象に残りました。実際の面談でも意識して実践してみます。

「安心感」が変化の土台になる。

それを頭で理解するだけでなく、実際に体験していただけた時間になったのではないかと思います。

私自身も、「変わる準備」の時間を過ごしていました

本来の力が戻ってくる

——これは、私自身も最近とても実感していることです。

実は、昨年までの2年間ほど、自分のエネルギーが低迷していました。

以前のように動けない。エネルギーが湧いてこない。

でも、そこから無理に抜け出そうとするのではなく、その時間を十分に体験してきました。

すると今年になって、不思議なくらい本来の自分のエネルギーが戻ってきました

今は元気いっぱいで、やりたいことも次々と浮かんできます。

誰かに変えてもらったわけでも、自分を無理やり奮い立たせたわけでもありません。

その時期を十分に体験したことで、自然と次へ進む力が戻ってきた

そんな感覚があります。

だからこそ、相談者に対しても「早く変わってほしい」とは思いません。

今、動けないことにも理由があるかもしれない。

今、抵抗していることにも意味があるかもしれない。

そこを否定せず、その人が今いるところを尊重する。

そうすることで、本来持っている力が戻り、自分から動き始めるときがきます。

支援者の仕事は、「人を変えること」ではない

今回の研修の最後にお伝えしたのは、次の3つです。

相手を「変えなければ」と思うと、支援する側も苦しくなります。

でも、「この人には、この人なりの理由がある」というところから関わることができたら、

相談する側も支援する側も、少しラクになれるのではないでしょうか。

人には、本来、自分で変わっていく力があります。

今の自分を否定されずにいられることで、自己不一致から自己一致へ向かい、本来の力が戻ってくる

そして、自分自身で「変わる準備」ができたとき、人は自然と次へ進み始めます。

その力を信頼して関わること。

それが、私が「全肯定保健指導」で大切にしていることです。

全肯定面談をもっと学びたい方へ

今週末9月19日からは、書籍『全肯定保健指導』を教科書に、

全肯定保健指導ののマインドとスキルを体験的に学ぶ「全肯定面談3DAYSワークショップ2026」が始まります。

今年はおかげさまで満席となりました。

来年の開催も検討していますので、今後の開催情報をご希望の方は、メルマガにご登録ください。

【次回の千葉産業保健総合支援センターでの登壇予定】

11月12日(木)14:00-16:00

産業心理学入門シリーズ-人間性心理学

https://www.chibas.johas.go.jp/seminars

※「全肯定保健指導」はヒューマンハピネス株式会社の登録商標です。