表出することで理解する

企業研修や産業医のお仕事の中で、

「早めに相談してくださいね」とか

「人に相談することが大切」ということをよくお伝えします。

アメリカ心理学会(APA)もストレス対処の方法として

「サポートを得る」ということを推奨しています。

レジリエンスが高い人の特徴として「相談力が高い」ということもあります。


でも、特にビジネスパーソンからは、

「話しても問題は解決しないですよね」とか

「みんな忙しいのだから自分だけ弱音を吐くことなんてできない」とか

「上司に相談すると迷惑がかかる」とか

「ただ話を聴いてもらうことに何の意味があるんですか」とか

「相談している時間があったら課題解決のために時間を使った方がいい」

というような反応が返ってくることが珍しくないです。

どうやら、相談することは弱音を吐くこと、

自分の状況を人に伝えることは迷惑をかけること、

具体的な課題解決につながらないのなら相談する意味がない、

みたいな感じで考えている人が多そうなのです。

これ、完全に勘違いだし、間違いです!

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一般的な理解としては

「人に話すと考えが整理される」

という感じの説明はよく聞くと思います。

もちろん「考えが整理される」「頭が整理される」という効果もあります。

でも、人に話す、表現する、表出することの意義は

考えが整理されるどころの話ではないのです。

自分が体験したことを表現するとき、

自分が体験したことを理解して、理解したことを表現していると思っていませんか?

たとえば、初めてひとりで旅行に行くという体験をしたとします。

初めてのひとり旅は楽しかったと感じたのでひとり旅は楽しかったと理解しました。

旅から帰ってきて友人にひとり旅は楽しかったと話す、つまり表現する。

模式化するとこんな感じです。

体験理解表現体験理解表現体験・・・・

でも、実際は私たちの理解は上記のサイクルで進むのではありません。

自分の感覚としてはひとり旅は楽しかったと感じていたとしても、

友人に初めてのひとり旅は楽しかったよ!と話して表現してみたら、

話しているうちにただ楽しいだけではなく、もの悲しいような感覚もあったな、ということに気づく、

というような経験は誰にでもあるのではないかと思います。

つまり、私たちは表現することで初めて本当に理解できるのです。

模式化するとこんな感じです。

体験表現理解体験表現理解体験・・・

このサイクルは、心理療法のひとつであるフォーカシングでは「体験過程様式」と名付けられています。

自分のこと、特に気持ちや感情、感覚などは

表現する、言語化してみないと自分でも実はよく分かっていないものです。

話してみて、表出してみて、

初めて「あー、自分はこんなことを感じていたんだ」

「あー、自分の本音はこれなんだ」

「あー、私ってこういう人間なんだ」

と気づいたり、理解したりするのです。

ですから、自分のことを理解するためにはとにかく表現することが必要なんです。

ただ、この「自分のことを話す」というのは意外と簡単ではないですし、

いざ自分のことを話そうとしたときに聴き手にいちいち批判されたり、

頼んでもいないアドバイスをされたり、

「その感じ方はおかしい」みたいにジャッジされたり、

「つべこべ言わずにがんばれ!」と叱咤激励されたりすると、

「あー、話さなきゃよかった…」と後悔だけが残るという結末になりがちです。

だからこそ、プロのカウンセラーやセラピストに

うまく「自分のこと」を引き出してもらって、

ノンジャッジで話を受け止めてもらう、聴いてもらうという体験を

「自分は健康だ」と思っている人にこそしてもらいたいんですよね。

カウンセリングは心を病んだ人だけのものではなくて、

自己理解や自己成長につながるものなんだって、声を大にして言いたい!

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