【登壇報告】部下の本音が上がってこないのはなぜ?管理職に必要な『自分の本音』への気づき

部下に本音を話してもらう出発点は、管理職自身が「自分の本音」に気づくことです。

その入口は、頭で考えることではなく「身体感覚」にあります。

こんな悩みはありませんか。

部下とは普段から話しているし、1on1(上司と部下の定期的な個別面談)もしている

会議では意見を言える雰囲気もある

それなのに、現場で起きていることがなかなか上がってこない

あとになって問題が分かり、手戻り(作業のやり直し)が起きる

部下が本当はどう思っているのか、よく分からない

「心理的安全性(安心して意見や疑問を言える状態)」や「1on1」は、企業の中ですっかり身近な言葉になりました。

ただ、話す機会を増やせば、本当に必要なことは伝わるようになるのでしょうか。

先日、大手製造業の管理職の皆さまを対象にした「対話実践研修」に登壇しました。

テーマは「沈黙のコスト ~『本音が言える』チームはなぜ強いのか~」です。

この記事では、登壇した内容をもとに、次の3点を解説します。

  • 小さな違和感を飲み込む「沈黙」が、なぜ事業コストになるのか
  • 部下の本音を待つ前に、管理職が気づくべき「自分への沈黙」とは
  • 仕事の合間にできる、身体感覚から本音に気づく3つのエクササイズ

管理職が抱える「人との関わり」の難しさ

管理職の皆さんは、次のような場面に心当たりがないでしょうか。

  • 上位方針と現場の問題認識にギャップがある
  • 現場の情報を十分に引き出せない
  • 本人の想いを聞き出せているのか分からない
  • 相手の負荷や考え方が見えず、どこまで仕事を任せていいのか迷う
  • 部下が嫌そうな反応をすると、強く指示を出しきれない
  • 指導とパワハラの境界が難しい

一つひとつは別々の問題に見えます。

しかし、その奥には「人とどう関わればいいのか」という共通の難しさがあるように思います。

管理職は、上司と部下、経営と現場、自部署と他部署など、さまざまな立場の間に立つ存在です。

そのため、コミュニケーションの「量」を増やすだけでは解決しない問題があります。

「話している」の質の違い

会話・議論・対話の違い

研修ではまず、「会話」と「対話」の違いを考えました。

会社には、意思決定のための「議論」もあります。

どれが良い・悪いという話ではなく、どれも必要です。

ただ、管理職の皆さんと関わる中で、「会話」や「議論」はあっても

「対話」が十分に行われていない場面が少なくないと感じます。

では、「対話」とは何でしょうか。

研修では、次のように整理しました。

対話とは、自分の無知・違和感・異論を、関係を壊すリスクを引き受けて、場に出すこと

会話は成立しているのに、情報が共有されていない例

たとえば、上司からこう言われたとします。

この企画、もう少し顧客側の視点で考えてほしい

よく分からない点がある。

少し引っかかってもいる。

それでも、こんな考えが頭をよぎります。

何度も聞いたら、理解力がないと思われるかもしれない

上司の意図くらい、自分で汲み取らなければ

結局、「分かりました。修正します」と答えます。

会話は成立しています。

しかし、本当に必要な情報は共有されていません。

研修では、こうしたケースから「沈黙」を考えていきました。

小さな沈黙が、大きなコストになる

職場の沈黙というと、誰も発言しない重苦しい会議を思い浮かべるかもしれません。

実際には、もっと小さなところから始まります。

ちょっと違う気がするけれど、まあいいか

気になるけれど、わざわざ言うほどではないか

難しそうだけど、何とかしますと言っておこう

こうした小さな違和感を飲み込むことが、沈黙の始まりです。

研修では、次の「沈黙の連鎖」を取り上げました。

違和感を無視する
発言を保留する
リスクを見落とす
事業コストになる

違和感が早い段階で共有されていれば、確認できたかもしれません。

計画を修正できたかもしれません。

別の方法を考えられたかもしれません。

しかし、情報が上がってこなければ、組織はそれを判断材料にできません。

そこで研修では、本音を事業に必要な「情報」として捉えました。

変化の速い時代に大切なのは、「もっと頑張ること」だけではありません。

早く気づき、早く伝え、早く修正することが重要になります。

「本音を言える職場」にすれば解決する?

ここまで読んで、「では、部下が何でも本音を言える職場にすればいいのでは」と思われたかもしれません。

もちろん、意見や疑問、懸念を伝えても否定されない「心の安全」は大切です。

ただ、今回の研修では、その一歩手前を扱いました。

そもそも、自分自身は自分の本音に気づいているだろうか。

「仕事だから、やるしかない」の前にあったもの

かなり厳しいスケジュールの仕事を任された場面を想像してください。

その瞬間、次のような反応が起きています。

胸が少し重くなる
呼吸が浅くなる
肩に力が入る
「このスケジュール、
大丈夫かな」
と違和感がよぎる

ところが直後に、こう考えます。

仕事だから、やるしかない

管理職なんだから、何とかしないと

決まったことだから、仕方がない

こうしたことは、職場では珍しくない反応です。

研修では、これを「自分自身への沈黙」として扱いました。

ストレスが高いと、身体感覚から感情、思考、望みへとたどるプロセスがショートカットされます。

その結果、「やるしかない」という役割モード(「管理職としてやるべきこと」に意識が固定された状態)に入りやすくなるためです。

もちろん、「やるしかない」と頑張ること自体は悪くありません。

管理職には、決まった方針をやり遂げる責任があります。

一方で、「このまま進めると、何か問題が起こりそうだ」という自分の中の小さなサインを拾い、必要なら確認することも大切な役割です。

研修では、この二つを「遂行」と「確認」と呼びました。

早めに確認することは反抗ではありません。

手戻りを減らすためのリスク管理です。

本音に気づく入り口は「身体」にある

では、自分の本音にどうやって気づけばいいのでしょうか。

頭で「自分の本音は何だろう」と考えても、なかなか答えが出ないことがあります。

そこで手がかりになるのが身体の感覚です。

研修では、次の流れを扱いました。

身体感覚 → 感情 → 思考 → 望み

具体例で見てみましょう。

  1. 身体感覚:「胸が重い」
  2. 感情:意識を向けると、「不安だ」と気づく
  3. 思考:「この納期では危ない」と考えている自分がいる
  4. 望み:その奥に、「一度、計画を見直したい」がある

ここまでたどって初めて、「この納期では難しいと感じています。一度、計画を見直したいです」と本音を言葉にできます。

本音というと、「言いたいことを何でも言うこと」と思われがちです。

しかし、そうではありません。

自分の中の身体感覚・感情・思考・望みに気づいて整理し、そのうえで相手にどう伝えるかを選べることが大切です。

その最初の入口が、身体に気づくことです。

今日からできる、身体感覚を起動する3つのエクササイズ

忙しく働いていると、意識はどうしても「考えること」に偏ります。

だからこそ、本音に気づくには、まず身体感覚に目を向けることがカギになります。

研修でも、次の3つのエクササイズを行いました。

特別な道具は不要で、仕事の合間にできます。

1.ボディ・スキャン(身体の各部位を順に観察する方法)

  1. 目を閉じます。
  2. 「喉の奥」「胸」「胃のあたり」に、順番に意識を向けます。
  3. 硬いか柔らかいか、重いか軽いかを観察します。

「これはストレスだ」「こう感じてはいけない」と判断する必要はありません。

「今、ここはこんな感じなんだな」と眺めるだけで十分です。

2.アイソメトリック・リリース(力を入れてから一気に抜く方法)

  1. 息を吸いながら、両肩を耳に近づけるように思い切りすくめます。
  2. そのまま5秒キープします。
  3. 「はぁー」と息を吐きながら、一気に力を抜いて肩を下ろします。
  4. これを3回繰り返します。

普段は、肩に力が入っていることにさえ気づかないものです。

あえて力を入れてから抜くと、身体の変化がつかみやすくなります。

3.3:6呼吸法

  1. 3秒かけて、鼻から静かに息を吸います。
  2. 6秒かけて、口から細く長く息を吐きます。
  3. 吐くときに、胸やお腹、肩にどんな変化があるかを観察します。

「上手に呼吸しよう」と頑張る必要はありません。

大切なのは、今、自分の身体で何が起きているかに意識を向けることです。

身体に気づくことが、「対話」のスタートになる

この3つは、リラックスのためだけのものではありません。

身体の小さなサインに気づくことは、次のような自分の内側の情報を拾う入口になります。

私は今、何を感じているんだろう
何が気になっているんだろう
本当はどうしたいんだろう

流れを整理すると、次のとおりです。

1
身体感覚に気づく
2
感情・思考・望みに
気づく
3
本音に気づく
4
伝え方を選ぶ

ここから「対話」が始まります。

研修では、「自分への沈黙は、チームの沈黙につながる」ともお伝えしました。

管理職が自分の小さなエラー信号(違和感や不安といったサイン)を拾わなくなると、部下が発しているサインにも気づきにくくなります。

この積み重ねが、やがて組織の「サイレント・リスク(表に出ないまま膨らむ危険)」につながる可能性があります。

だからこそ、「どうすれば部下が本音を話してくれるのか」を考える前に、

「私は、自分の本音に気づけているだろうか」と問いかけてみてください。

それも、チームの心理的安全性を育てる一歩だと考えています。

「人の問題」を、個別のテクニックだけで解決しない

企業で管理職の皆さんと関わっていると、人にまつわる課題は実にさまざまです。

01
部下のメンタル不調
02
ハラスメントを恐れて、
必要な指導ができない
03
1on1をしているのに、
本音が聞けない
04
仕事を抱え込み、
疲弊してしまう
05
悪い情報や現場の違和感が、
上に上がってこない
06
心理的安全性を高めたいが、
成果や責任も大切にしたい

一見、それぞれ別の問題です。

しかし根底には、次の2つの理解があります。

人間理解
人はどういうときに安心し、
どういうときに自分を守ろうとするのか
自己理解
自分自身には、今、
何が起きているのか

メンタルヘルス、ハラスメント、1on1、心理的安全性。

それぞれの知識やスキルを学ぶことは、もちろん大切です。

ただ、人と関わるたびに「この場合の正解は何か」と迷い続けるのでは、現場で動けません。

目の前の人と自分に何が起きているのかを理解し、その場で考えて選べる管理職を育てること。

それが、これからの組織に求められる管理職像です。

自分を失わずに人とつながり、自分の役割と責任を引き受けて働く。

その力を育てることも、管理職研修の大切な役割だと考えています。

最後に

今回の研修を企画してくださった担当者の方、そして参加してくださった管理職の皆さまに、心より感謝いたします。

さまざまな立場や責任を担いながら人と関わる管理職にとって、「対話」や「本音」は簡単なテーマではありません。

だからこそ、まずは自分自身に、こう問いかけるところから始めてみてください。

-私は今、何を感じているのだろう

-本当は、何を伝えたいのだろう

この記事が、ご自身との関係、そして周囲の人との関わりを見つめ直すきっかけになれば幸いです🍀